「フェルマーの最終定理」感想
- 作者: サイモンシン,Simon Singh,青木薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/05/30
- メディア: 文庫
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以前にNHKで放送されたドキュメンタリー(BBC制作・本書著者が制作に参加)を見ていたので、大まかな流れは知っていました。
それでも、やっぱり面白い。文庫判で495ページの長さが全く気にならない。むしろ、もっと長くてもいいと感じるぐらいでした。
私は高校で文系コースを選択し、数学は高校2年までしか履修しておらず、大学入試で数学は受験科目にありませんでした。そんな自分でも楽しめたので、文理関係なく読めると思います。
証明したワイルズだけではなく、それまでに最終定理に挑んできた数学者の歴史にもページを割いているため、数学史を全く知らない私にとって本書の構成はベストでした。とりわけ、女性数学者や日本人数学者のくだりは興味深く読めました。
フェルマーの最終定理とは離れて関心を引いたのは、いわゆる「四色問題」についての記述(444頁以降)です。
「ところが突然、プログラムがチェスをする機械のように振る舞いはじめたのだ」
チェスという言葉に、将棋を思い浮かべました。私は観る将棋ファンですし、将棋ソフトをめぐる様々な問題は、まさに今起こっているからです。
「ある意味で、プログラムは機械的作業のみならず、「知的」な部分でもその創造者を追い抜いたのである」「それと同時に数学界にある種の不安が広がった。というのは、従来の意味では、この証明はチェックできないからである」
そして、数学者ロナルド・グレアムの言葉として「将来、コンピューターに向かってリーマン予想が正しいかどうかを尋ねたとして、『はい、それは真です。しかしあなたにはその証明を理解できないでしょう』などと言われたら、いやになってしまうだろう」と。
もちろん将棋の解析と数学の証明を同一には考えられないでしょうが、以前に、こんな会話をWebの将棋中継で耳にしたことがあります。
「プロ棋士:なんで、ソフトはこの手を好むのですか?」「ソフト開発者:いや、私には分かりません」
これまでの対局や研究の積み重ねで発展してきた将棋の定跡や手筋と、ソフトが生み出した指し手が、どう「人間 対 人間」の勝負に関わり、それを棋士やファンがどう感じるのかは興味深いところです。もはや、最近のソフトはプロ棋士の棋譜を参考にしていないですし(https://job-draft.jp/articles/74)、千田六段のようにプロ棋士の棋譜を参考にしない棋士がタイトル挑戦を決めるなど活躍するようになってきています。
話がそれましたが、本書では「フェルマーの最終定理」そのものだけでなく、数学史や数学界も含めて興味を持てるように書かれているので、ストーリーを追う読み物として楽しめます。たまにNHKスペシャルで放送されている数学や物理のドキュメントを楽しめる人には、ぜひオススメします!