「春昼・春昼後刻」感想

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1906(明治39)年作。

なかなか読み進めるのは大変だけれど、現実と幻想が入り混じっていく陶然感がたまらない。春という季節の「寂しさ」を語る、その一つ一つの描写が美しいのです。特に『春昼後刻』で、みをが語る言葉の数々が心に染み入ってきます。

高野聖』ほどの怪奇はありませんが、ドッペルゲンガー要素も出てきたりで、恐怖と美しさが味わえる一作です。

米澤穂信古典部 千反田えるの本棚30冊】読了12作目
荒俣宏 新編 別世界通信 180冊+5】読了7作目

「天球儀文庫」感想

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天球儀文庫 (河出文庫)

天球儀文庫 (河出文庫)

1991-1992年作。天球儀文庫シリーズ四作の合本。

初出の単行本は「天球儀文庫」の名にふさわしく、造本と装丁に凝っていて挿絵もありました。

少年二人の交流が緩やかに(けれど最後は鋭利に)描かれていて、道具立てやら、世界観やら、初期作好きの長野ファンなら満足間違いなし。難解さもなく、不穏さもありません(死の要素があったほうが好みですが)。

作風の変化に触れた作者あとがき(2005年)も興味深い。20年ほど前に加入していたファンクラブ(三月うさぎのお茶会)会報のエッセイ等でも、読者ファンに媚びるようなことは無く、強い信念を持って創作に当たっている感じがあったと記憶しています。

「花のにおう町」感想

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花のにおう町 (安房直子セレクション3)

花のにおう町 (安房直子セレクション3)

1983年刊。短編六編を収録。

どれもが幻想的・叙情的で、美しくもあり悲しくもある物語。

巻頭作の『小鳥とばら』が特に好き。生垣に囲まれた庭。少女と不思議な少年。「小鳥とばら」のパイ。生と死と成長。ホラー風味もあり、見事な幻想小説です。

『花のにおう町』も、花の精というメルヘン的な世界に、恐怖がそこはかとなく漂っているのが好い。

『ききょうの娘』は創作昔話風で、本書の中では少し異色。教訓話になりそうなところ、優しさを感じられる結末でした。

味戸ケイコさんのイラストも幻想味があって素晴らしく、自分好み。あと、初出一覧に雑誌『詩とメルヘン』の名前があって、なつかしさを感じたり。良作。

【光村図書 小学校教科書 国語 4年 紹介図書 平成27年度】

「高層の死角」感想

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高層の死角 (角川文庫)

高層の死角 (角川文庫)

1969年作。江戸川乱歩賞受賞作。

圧巻は後半、怒濤のアリバイ崩し。これでもかと壁が立ちはだかり、刑事たちの執念で崩していきます。アリバイ物を特に好むほうではないので、作者の緻密さについていくのがやっとでしたが(笑)。

50年前当時の交通事情やホテル事情が分かる楽しみもありました。

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【旧版 東西ミステリーベスト100 国内編】読了10作目 52位

「ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と不思議な客人たち」感想

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2018年作。短編四作を収録。

ビブリアの第1巻を読んだ時の感触があって、「そうそう、これこれ。こういうのが面白いんだよー」と思いながら読み終えました。

ゲーム本を扱った「俺と母さんの思い出の本」が、選書に新鮮味もあって良かったです。登場人物にクセがあり、悪意も多く描かれているのですが、ストーリーの妙もあってのビターな読み心地は大好きですね。

「清兵衛と瓢箪・網走まで」感想

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清兵衛と瓢箪・網走まで (新潮文庫)

清兵衛と瓢箪・網走まで (新潮文庫)

全18編の短編を収録。明治37年大正3年の作。

ミステリー好きとしては、『剃刀』『范の犯罪』『児を盗む話』の三編が面白かった。徐々に緊迫感が増していく丁寧な描写で、ホラーっぽい雰囲気もあります。心理が細やかに書き込まれているので、じわじわと恐怖が染み入ってくる。

それ以外で印象に残ったのは、有名な『清兵衛と瓢箪』かな。瓢箪をコレクションする少年と父の軋轢。『米澤穂信古典部』で、本書が「千反田えるの30冊」に選ばれている理由は、多分、この作があるからなのでしょう。

白樺派と聞いてもピンと来ない文学オンチの自分ですが、意外と読みやすく、楽しめる作が多かったです。

米澤穂信古典部 千反田えるの本棚30冊】読了11作目

「樹液をめぐる昆虫たち」感想

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樹液をめぐる昆虫たち (わたしの昆虫記)

樹液をめぐる昆虫たち (わたしの昆虫記)

2005年刊。樹液が出る仕組みについてはよく分かっていなかったところ、2000年になってボクトウガ(蛾)の幼虫が関係しているらしいことが発見されたとのこと。意外と最近なんですね。

人間が作り出した里山が生態系の豊かさを産み、里山を放置することによって生態系が失われていく。人間がいなくなることによって自然が失われるというわけで、自然とはなんぞや、と考えさせられます。

【光村図書 小学校教科書 国語 6年 紹介図書 平成27年度】