「八月の暑さのなかで話(ホラー短編集)」感想
- 作者: 金原瑞人,佐竹美保
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/07/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 「こまっちゃった」エドガー・アラン・ポー(翻案・金原瑞人)
- 「八月の暑さのなかで」W・F・ハーヴィー
- 「開け放たれた窓」サキ
- 「ブライトンへいく途中で」リチャード・ミドルトン
- 「谷の幽霊」ロード・ダンセイニ
- 「顔」レノックス・ロビンスン
- 「もどってきたソフィ・メイスン」E・M・デラフィールド
- 「後ろから声が」フレドリック・ブラウン
- 「ポドロ島」L・P・ハートリー
- 「十三階」フランク・グルーバー
- 「お願い」ロアルド・ダール
- 「だれかが呼んだ」ジェイムズ・レイヴァー
- 「ハリー」ローズマリー・ティンパリ
岩波少年文庫で「中学生以上」と記されているヤングアダルト向けのアンソロジー。編者である金原瑞人さんがすべて翻訳(新訳)しています。
ポー「こまっちゃった(翻案)」。あとがきで触れられているとおり、江戸川乱歩の「魔術師」で当作のアイデアが転用されています。つい2週間前に「魔術師」を読んだばっかりなのでびっくり! 「魔術師」の自註自解で乱歩自身が一部のシーンについて「ポーの短編の着想を通俗化したものである」と書いていて、そこでは具体的な作品名が上がっていなかったのですが、こんなにも早く巡り会えるとは。偶然もいいところです。
「八月の暑さの中で」は結末が書かれていない分、味わい深い。こういう終わり方は好みですね。分かりやすいオチがつかないと気がすまないという人には向かないでしょう。
「開け放たれた窓」はユーモアがあって面白い。サキは独特な人気がある作家のようなので、ちょっと気にしておきたい。
収録作品中もっとも好きなのが「顔」。これは素晴らしかった。幻想的で切なくて、ちょっとだけ怖い。幻想小説では「水」はなんらかの「境界」(生と死、現世界と異世界……)を表すものとして使われることがあるけど、この作品では顔が「湖」に浮かびます。この短編にめぐりあえただけで、このアンソロジーを手に取った価値がありました。
「もどってきたソフィ・メイスン」は結局怖いのは幽霊より人間だよね、というピリッとした皮肉が効いている作品。
「ポドロ島」も面白かった。出てくる女性の狂気を感じます。飢えている猫に対して「苦しまないうちに殺した方がいい」と語るアンジェラ。その後、死にかけのアンジェラが「殺してくれ」と願うシーンに重なって、深い味わいになっています。何が起こったのかは直接書かれませんが、この書き方も私好みですね。
「十三階」は存在しない階を訪れてしまうという話。怪談話としてはよくある設定のベタな話で、お手本のような作品です。どこかで読んだような話だけど、具体的には思い出せない……という感じ。将来、AIがこんな小説を書くんじゃなかろうか。
ダールの「お願い」は、子供の頃にあるあるの「自分ルール」を扱った作。子供の想像力を豊かに描いています。
「ハリー」は「顔」に次いで印象に残った作。ああ、こういう切なくて幻想味のある作品は大好き。怖いとうよりは、なんか違った意味で、読んでいると体が震えてきます。
ホラーと銘打っていますが、グロテスクな描写はほとんどありません。テレビドラマの「世にも奇妙な物語」系と言った感じでしょうか。ホラーという言葉も多義的なので、人によっては「全然怖くない!」と思うかもしれません。
幻想味があって、少し切なくて、そんな雰囲気が好きな人にはおすすめの作品集。中学生向けの訳なので、気になる方はご注意を。私はまったく気にならないんですけどね。