「夜啼く鳥は夢を見た」感想

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夜啼く鳥は夢を見た (河出文庫―BUNGEI Collection)

夜啼く鳥は夢を見た (河出文庫―BUNGEI Collection)

ああ、なんて素晴らしい。水蜜の匂い、ルリルリルリという音、沼や泥の触覚。乱反射する光と、夜の夢――そして、死。

裏表紙のあらすじに「水紅色の物語」とある。前作『野ばら』が「白」なら本書は「赤=血の色」か。水蜜桃、赤銅色の夕暮れ、百日紅(作中では紫薇の表記)。

「長野まゆみは、少年と少年の関係を書きたいのではない」とは解説にある井辻朱美さんの言葉。物語はなく、五感に訴える描写で夢のように語られていく。

この作者は本当に怖ろしい。幾度となく死へと近づく描写がされていても、作者の筆致に酔わされてしまうのだ。なんて美しい死……いけない、いけない。いつしか、沼に惹かれていく自分が……

【きっかけ:再読。長野まゆみを初期作から読破中】