「本格ミステリー館」感想

本格ミステリー館 (角川文庫)

本格ミステリー館 (角川文庫)

20年振りぐらいの再読。当時はハードカバーの方で読みました。

前半では「本格ミステリー」をめぐって、島田荘司と綾辻行人の両氏が議論を交わしているのですが、これが見事なまでにかみあっておらず、本書の出版後に色々と物議を醸したらしいというのは、本書の文庫版あとがきに触れられています。

そう言えば、当時「本格ミステリー宣言」も読んだし、議論の場になった小説すばる誌も読んだりしていたので、あーそんなこともあったなあと昔を懐かしく思い出したり。自分は、ただの一読者として無責任にバトルを楽しんでいた記憶があります。

本書の議論がかみ合わないのは、島田さんが過去の歴史的経緯も踏まえて「本格ミステリー」というジャンルを絶やしたくないという強い目的があり、それを前提に論が進められているように感じられるところにあると思います。島田さんは綾辻さんを「説得」したい。でも、綾辻さんは何かの目的のためにではなく、ミステリを論じたい。そもそもの座っている位置が違うように思えました。

島田荘司は国会にいて、綾辻行人は学会にいるという感じ。政治的議論と学問的議論で、議論の意味・目的がそもそも違う。そんな感じです。

なお、本書は対談本なのですが、島田さんのあとがきにあるように、文庫化に当たって島田さんの発言には最小限の加筆がされているようです。ざっと見た感じ、綾辻さんの発言も語尾がちょっと変わっていたりするところもあって、議論の歴史を追いたい人は親本にも当たったほうがいいと思いますね。

それから、綾辻さんの文庫版あとがきで紹介されている「小説すばる 95年5月号」掲載の我孫子武丸さんによる反論文が読めるサイトは現在ありませんが、アーカイブサイトで読むことができます。→ http://web.archive.org/web/19990302054231/http://www.ltokyo.com/p/abiko/nhonkaku.htm

ただ、これはもう25年も前の話で、当時の時代の空気というのは今となっては掴みにくいですね。本書を読むと、どうしても綾辻さんに共感してしまう部分が多いのですが、島田さんにはデビュー以後の苦労・闘いなどの背景があってのことでしょうし。

なんか御手洗潔シリーズもまた読みたくなってきたなあ。占星術~龍臥亭までは読んだんですよね。