「看板描きと水晶の魚(英国短篇小説の愉しみ 1)」感想
- 作者: 西崎憲
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1998/12
- メディア: 単行本
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- 「豚の島の女王」ジェラルド・カーシュ
- 「看板描きと水晶の魚」マージョリー・ボウエン
- 「羊歯」W・F・ハーヴィー
- 「鏡のなかの貴婦人――映像」ヴァージニア・ウルフ
- 「告知」ニュージェント・バーカー
- 「詠別」J・ゴールズワージー
- 「八人の見えない日本人」グレアム・グリーン
- 「花よりもはかなく」ロバート・エイクマン
- 「リーゼンベルク」F・M・フォード
ヤングアダルト向けの本を続けて読んでいたところ、うってかわって堅めの短編集。
読めない漢字や知らない言葉などもちらほらあって、読むのに時間がかかった作品もありました。読書歴が浅い無学な私のせいですが……
一番印象に残ったのが「豚の島の女王」。「アナタハンの女王」事件*1を彷彿とさせる作。事件発覚は1950年で、この作が含まれる短編集が1953年刊行。関連があるかどうかは分かりません。四肢欠損の美人で聡明な女性、巨人症で醜いが優しい大男、そして二人の小人症の男。四人が流れ着いた無人島で……。悲劇的で切ない傑作です。
「看板描きと水晶の魚」も良かった。幻想と現実が入り交じった感覚がいいのです。
「羊歯」も印象深い作。平凡な男の生きがいをめぐる、ちょっと悲しい話。後に残ります。
「鏡のなかの貴婦人――映像」はセリフがなく、鏡を映った女性を思い描いた作。鏡があらわにする現実がもの悲しい。
「八人の見えない日本人」は、自分が作者だったら男女逆の設定にしてしまうかも。表題は、「見えない」ではなく「目に入らない」という意です。
「花よりもはかなく」は素晴らしい作品でした。女性の美への追究が、しだいに狂気じみてくる様が怖い。
「リーゼンベルク」は奇作であり快作、怪作。作の後半で、ぐらぐらと読者の現実感が揺らぐこと間違いなし。幻想小説として素晴らしいです。
どれも面白い作品で、読書の愉しみを与えてくれた短編集でした。