「テレヴィジョン・シティ」感想

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テレヴィジョン・シティ (河出文庫)

テレヴィジョン・シティ (河出文庫)

1992年作、長野まゆみ初期のSF巨編。上下巻の合本で新装版。

素晴らしい作でした。ストーリーの展開はゆるやかで、世界観を諒解するのもなかなか難しい。非常に不可解な話ながらも、なぜか胸を打たれる不思議な読後感です。

ディストピアものと言って良いでしょう。地球外の惑星で、コンピューターにより管理されたビルの中に暮らす少年たち。必要最低限な(今で言えば究極のミニマリスト的な)ものしかない世界で、ただただ生かされているようにも感じられます。景色は映像<テレヴィジョン>。映像と音声は分離され、やがて少年たちの身体性や精神性も分離していく……。

以前に読んだカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』に雰囲気が似ているところも少しありますね。昔に中途で挫折した覚えがあったのですが、今回は最後まで読めました。

なお、旧文庫版の上巻末インタビューが、作中の世界観についての自作解説のようになっています。20ページにも及ぶもので一読の価値あり。この合本では惜しくもカットされています。